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ファッション業界の第一線で活躍するモデルの冨永愛さん。
コロナによって社会の風向きが変わりつつある中、
彼女が考えるこれからのファッション業界が抱える課題とは何なのか。
また、モデルとして、一人の人間としての冨永さんの生き方、
暮らしの中での「チョイス」についてお伺いしました。

(写真 / 下村一喜)

ショックがあって、
業界が変わろうとしている。

― 「サステナブル」という言葉が、ファッション業界でもよく聞かれるようになりました。冨永さんご自身は、現在ファッション業界が取り組まれていること、これから取り組んでいかなければいけないことについて、どう思われますか?

冨永さん

いま、みんながコロナに直面して、ファッション業界全体も、図らずもサステナブルな流れが進んできていると思うんです。以前はあまり知られていなかったのですが、ファッション業界というのは、世界で2番目に環境を汚染している産業だと言われてます。数年前から、そのショックな話題が広まりはじめた。原因は、ものをつくる人たちが、産業が環境に与える影響まで見ていなかったこと。見えていなかったのか、見ようとしていなかったのか。これまでの業界のやり方は、毎シーズン、コレクションをつくって、余ったら破棄していたのです。私が着ているセーターも繊維からつくられていますが、この一着が世の中にどういう影響を与えているのか、誰も考えてこなかった結果だと思います。けれど、コロナ禍で流通がストップして、物理的に新しい服がつくれなくなった。これまで築いてきたものを一度壊して、再構築していくタイミングだからこそ、新しい常識をつくっていくことができると思っています。毎シーズン、コレクションを発表すること自体が悪いとは思いません。震災のときも、今回のコロナもそう。大変な状況のときに、ファッションは生命を維持していく上で必ずしも第一に必要となるものではないけれど、すこし経てば、やっぱり「心の栄養」として大事なものだったと気づく。大切なのは、そのつくり方。つくる量をコントロールするなど、生産方法自体を見直していくことが求められているんだと思います。

格好よく、美しく、
届けていくのが私の使命。

―サステナブルな未来を目指していく中でも、ファッションを楽しみたい人も多いと思います。そんな私たちが、日頃からできることとは、なんでしょう。

冨永さん

まず、商品を購入するときにできるのは、自分が好きなブランドがどういう活動をしているのか、自分で調べてから買い物に行くこと。企業の環境意識も高まって、今やもう、そうした取り組みをしていないブランドは、ほとんどないといえるくらいですよね。一方で、それがユーザーにとって、伝わりにくいことも事実です。ブランド側としては発信しているつもりでも、実はユーザーが自ら調べないと情報を得られない。若い方たちと話していると、ファッションが環境を汚染しているということに、あまり関心がないことがわかります。だからこそ私は、ファッション業界の人間として、かっこよく、美しく発信していくのが自分の使命だと思う。社会貢献やエシカルの取り組みは、100%やらなければと思うと、なかなか取り組めなくなる。100%ではなかったとしても、自分の生活の1割2割だけでも変える取り組みをみんながすれば、状況は大きく変わる。そういう気軽さというか、メッセージを伝えていければ、たとえ全員に届かなくても、1割でもなんとかしようという人が増えていけば、大きな変化につながると思っています。

今日のチョイスが、
地球上の誰かを応援している。

― 一人ひとりが、すこしずつ行動を変えていく。それが、美しい未来にもつながっていきますね。最後に、冨永さんが考える「美しい生き方」とは、一体どんなものでしょうか?

冨永さん

心が豊かになることかなぁ。コロナ禍で考えさせられたことですが、自分さえよければいいというわけではない世界になったと感じています。他者の幸せも含めて、自分の幸せという時代になったんじゃないかと思います。今でも覚えているのですが、最近どうしても欲しい、かっこいいデザインのデニムに出会ったんです。でも詳しく調べたら、そのブランドはサステナビリティに関する活動を何もしていなかった。正直葛藤したんですが、私はその時、買うのを諦めました。製品を選ぶことは、私がたとえ意識していなくても「誰かを応援する」ことにつながっていると思うから。選ぶって、応援なんです。自分が何かをチョイスすることで、この地球上にいる、誰かのためになっている。絶対に。だから、きちんと情報を知った上で、チョイスしたい。みなさん一人ひとりのチョイスにも、その力があるということが、伝わるといいなと思いますね。

私たちがサステナブルな未来をつくっていくために必要な「選択」とは何か。環境大臣内閣府特命担当大臣である小泉進次郎氏と、『CHOICE! ZERO WASTE』の運営メンバーが対談しました。生活の中で、ものを消費する私たち。そして、生産者である企業。さらには、企業の経済活動の土台となる国。それぞれの視点から、サーキュラーエコノミーの実現にどう向き合っていけばいいのか。大きく3つのテーマにそって、お話を聞くことができました。

テーマ 1.

ゴミを出さない社会はどう実現させる?

司会・鈴木 (株式会社パラドックス)

まず一番はじめに「日々の『捨てる』という行動から社会を見つめ、今よりすこしでも持続可能な社会を実現していきたい。」というのが、わたしたちプロジェクトメンバーの思いです。捨てないための、サステナブルな消費という視点から、幅広い人たちにより良い製品やサービスを伝えていこうと思っています。

サーキュラーエコノミーの前提は、ゴミを出さないこと。

春山 (株式会社YAMAP)

サーキュラーエコノミーをつくっていくことは、これから私たちに必要なチャレンジだなと思っています。しかし、この概念がみなさんまちまちで、なかなか噛み合っていないことがあります。「サーキュラーエコノミーと言っているけど、それってリユースエコノミーだよね」ということもしばしば。(*1)もともと、自然界にゴミという概念はありません。資源が少ない日本においては、ゴミというものをなくして、すべてを循環させる「ゼロウェイストな経済」をつくる必要があります。その大きな概念を整えつつ、ひとつずつ実践を積み重ねていくのが今後の課題でありチャレンジです。小泉大臣には、そんな視点も踏まえつつ、環境省としての役割などもお聞かせいただけたらと思うのですが、いかがでしょう。

(*1)サーキュラーエコノミー概念図

小泉大臣

環境省では、「経済社会のリデザイン(再設計)」という言葉をキーワードにしています。コロナと気候危機の中、これからの未来を見据えて、より強靭な社会をつくっていく必要がある。そのために環境省としては、3つの移行を掲げています。「①脱炭素への移行、②サーキュラーエコノミーへの移行、③分散型社会への移行」の3つです。

この3つが実現できれば、より感染症や災害にも強い社会になっていくと思います。いま私たちが当たり前に享受しているものを、次の世代につないでいくために、エネルギーはもちろん、ライフスタイルもリデザインしないといけない。そこで重要になってくるのが、サーキュラーエコノミーです。前提として、日本でも以前より実行していて、馴染みのある3R(リユース、リデュース、リサイクル)とサーキュラーエコノミーは全く違うものです。3Rは、ゴミを出す前提に立った考え方ですが、サーキュラーエコノミーとは「捨てない経済社会」。ゴミを出さないという前提に立った社会をつくっていくことだと、私は捉えています。

ものづくりにおける、上流の設計を変える。

小泉大臣

環境省としても、サーキュラーエコノミーの動きを強烈にプッシュしています。実は、海外から見ると、日本企業の取り組みは評価されているところもあります。しかし残念ながら、なかなかその取り組みが国際社会に伝わっていないのは、サーキュラーエコノミーとして語っていないから。これからは、3Rではなく、サーキュラーエコノミーの文脈で語っていくことで、日本の持っている技術や、廃棄物のマネジメントが、ビジネスチャンスとして広がるように発信していこうと思っています。例えば、TOYOTAの取り組みで『Toyota Global Car to Car Recycle Project』というプロジェクトがあります。ただスクラップにするのではなく、グローバルなサプライチェーンの中でリサイクルする動きも進んでいます。

日本も他の多くの国々も、2050年までに「脱炭素社会の実現」を掲げていますが、これはサーキュラーエコノミーとの関わりも密接だと思っています。エレンマッカーサー財団(*2)は、「45%のCO2はサーキュラーエコノミーに移行することで減らすことができる」と述べています。わたしたちのライフスタイルを「捨てない経済社会」へリデザインしていくということが、これから2050年までのカーボンニュートラル実現に向けた長い道のりの中でとても重要です。ものづくりの上流から、その設計を組み込み、良い製品やサービスが、消費者や国民の皆さんに選択されやすい世の中にしていくことに力を入れ始めています。

(*2)サーキュラーエコノミーを推進するイギリスの組織

春山

そうですね。大切なのは、「アタマとカラダ」だと思います。経済の概念をつくるのは人間なので、使い捨ての社会は自分たち人間も使い捨てにしている、ということにつながっています。一方で、サーキュラーエコノミーは自然に近い考え方ですね。「自然に学ぶ」という姿勢さえあれば、違和感もないと思います。自然に近い生き方をしていたら楽しくワクワクしてやれるはずですが、現代の多くの人々の生活とはかけ離れているため、自分たちのライフスタイルをどう自然に近づけていくのか、企業や国の取り組みと、いち生活者としての視点の両輪で進めていかなければいけないと感じています。

「商品を選ぶ基準」を変えるインパクト。

小泉大臣

日本において、サーキュラーエコノミーは、今はマイノリティな考え方ですが、これから長い目で見たら必ずマジョリティになります。今後はサーキュラーエコノミーの視点がないと、消費者から選ばれず、市場から排除される可能性さえあります。世界は間違いなく、そういう流れになっている。これから日本が世界経済の中でどうやって戦略を立てるのか。すでに世界で土俵は整っていて、ビジネスチャンスにもなるということに、より多くの人に気付いて欲しいと思います。

(株式会社電通)

お話を聞いて「捨てない経済」というのは、まさしくそうだなと思いました。僕は美術大学を出て、ものづくりをしている側の人間ですが、クリエイターは「より美しい、いいものをつくりたい」と思いがちです。しかしこれから「捨てない経済」に移行するためには、クリエイターを含め、人間がものをつくる考え方そのものを変えていかないといけないんだなと。一方で、ゼロウェイストな製品を作っていくとなると、どうしてもコストがかかるので、作る側も買う側もなかなかハードルがあって踏み出せない状況があると思います。作り手や買い手が、環境に良い製品を作りやすく、あるいは買いやすくなるためのアクションは考えていらっしゃいますか?

小泉大臣

その答えの一つが、法整備だと思います。環境を配慮した設計に認証や助成金を出すことで、選択しやすい環境をつくることができれば、非常にインパクトは強いと思います。

また、ぜひ榊さんのようなクリエイティブの世界で活躍している方にも、展開していただきたい考え方として「カーボンフットプリント」があります。わたしが最近購入した『ALLBIRDS(オールバーズ)』というブランドのスニーカーのお話ですが、このブランドの製品にはカーボンフットプリントという、製品のCO2の排出量が明記されています。カロリー表示のように数値化して見えるようにすることで、ある種ブランド化しているんです。クリエイティブな世界でもぜひ、取り入れていただきたいと思っています。

(株式会社電通)

 

我々の『CHOICE! ZERO WASTE』のロゴ(*3)も、人々の「選択」への認証を意識して制作しています。ゆくゆくはこのマークがついていることで、消費者が環境に良い製品を選びやすくなるように広めていけたらと思っています。

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日本の考え方、どうアップデートする?

望月 (REDD inc.)

サーキュラーエコノミーを考える上での悩みはなんといっても、「ソーシャルグッド」と「経済的なグッド」を両立させることだと思います。日本では「3方よし」という考え方が広く知られていますが、そんな日本の思想に根ざしながら、新たな思想を伝えるスローガンとして「6方よし」(*4)という考え方もあるのかなと。地球全体への負荷が減るなど、アップデートした思想で語りながらも、今まで日本人が大事にしてきた考え方でコミュニケーションをとることで、伝わりやすくなるのではないかと思っています。

(*4)6方よし概念図

田口 (株式会社ボーダレスジャパン)

もともと僕らプロジェクトメンバーが集っているのは、石坂産業さん(*後述)との出会いでした。石坂さんがおっしゃっていた「産廃事業者として、産業の最後のゴールキーパーとしてやってきた。しかし昔は分解できたものが、最近では、ものづくり過程における技術も複雑になり、捨てるときのことを考えてつくられていないから、分解できなくなってきている」という言葉がとても印象的でした。日本と海外との大きな違いは、消費者側の意識だと思います。消費者側がそういうものを求める意識をつくっていけば、市場は変わらざるを得ない。だから、僕らとしては、『CHOICE! ZERO WASTE』のような新たな旗印を立ててやっていきたいんです。

小泉大臣

日本人の環境への意識は、僕が大臣になってからも難題です。しかし、近年は徐々に変わり始めています。特に、若い方々が変わりつつあるのには驚きました。最近は小学校でも「SDGs」(*5)に関する授業をしているところも増えてきています。若者からの良い意味での突き上げは非常に大きい力になるなと感じます。

(*5)Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)

田口 (株式会社ボーダレスジャパン)

大人たちが、子どもから言われて気付いた、という影響はとても大きいと思います。すべて、知ることから始まる。みんなが今まで知らなかったことを、知るきっかけになるプロジェクトになれたらと思います。

小泉大臣

子どもから大人への語りかけと同様に、ターゲットに合わせたメッセージが必要になると思います。企業にむけたメッセージを考える上では、便利かどうかや、経済的な損得ということもとても重要です。理念と理想だけでは、世の中は動かない。だからこそ、「成長産業ですよ」という、経済的メリットから発信していくことも必要だと考えています。これまでのリニアエコノミーでは、日本として損なお金の使い方をしてきました。石油石炭やゴミの問題にしても、非常に多くのコストを使っている。これらのコストを、これからはより活きた使い方へと転換していけるよう、伝え方も考えていけたらと思います。

司会・鈴木 (株式会社パラドックス)

相手によって語ることを変えなければいけないという意味では、仕組みをつくるということも、これから目指す方向を示すメッセージになりますね。企業、自治体、個人に向けて、それぞれにメリットを語りながら、本質へ導いていくことも方法の一つだと思います。

テーマ 3.

今日、僕たちができること。

田部井 (株式会社タベイプランニング)

環境問題という言葉は、一般的にとても距離がありますよね。普段の生活ではあまり感じないですが、たとえば山に行ったときなど、自然環境に置かれたときに普段の便利さを感じるような気がしていまして。僕は毎年、東日本大震災で被災した高校生を富士山に連れていくというプロジェクトをしているのですが、山小屋のトイレは水が出ないのが当たり前。自分で出したゴミを持って帰ってきます。そういったことも、体験を通して初めて知ることができます。今は自然に触れる機会が減ってきているからこそ、教育の部分が重要になってくると感じます。これから子どもたちに教えていくという観点で、小泉さんご自身が、父としてお子様にできること、という部分も知りたいのですが。

小泉大臣

私自身、環境大臣になってから生活が一変しました。これまでの生活を反省する部分も多いです。マイバッグはもちろん、マイボトルを使い、自宅に浄水器をつけることでペットボトルの水は買わなくなりました。生ゴミの処理にコンポストも買い、電力契約も再生エネルギーに切り替えました。「環境大臣だからやっているんだろう」と思う人もいると思いますが、私自身は楽しみながらやっています。環境のことを知るほど、暮らしが変わってくるんです。「次は何を変えられるかな?」と考えながら、ある意味ゲームのような感覚で楽しんでいます。暮らしの中で、親としてもそういう姿を示すことはとても大事だと思います。

石坂靖子

私たちは産業廃棄物を扱っていますが、廃材から建築に関わる材料も作っています。しかし、リサイクル材の導入には壁も感じています。これから、変えていかなければいけない部分も非常に大きいと思います。

石坂典子

仕事柄、30年近く毎日、産業廃棄物を目にしてきました。その中で「これはそもそも経済の設計ミスだ」と思い続けていました。業界を超えて、社会を変えなければいけないと。今ようやく、「誰がつくっているのか?」ということや「古く長いものを愛する」といった、目には見えない価値が社会的に認知されている。そんな中で、これからの私たちの「捨てる」「捨てない」という選択はどうあるべきなのか。今回のプロジェクトメンバーもそうですが、業界の垣根を超えて、世の中に伝えていきたいと思っています。

小泉大臣

ぜひ、そこは協力をしてやっていきたいですね。これからの鍵は、サーキュラーエコノミーという概念を当たり前にしていくことにあります。そのために、環境省としてもフラットでオープンな構造を作らなければと思っているところです。『CHOICE! ZERO WASTE』という活動も、業界だけで取り組んでいたら気づけないところに、気づきを与えるプロジェクトになっていただきたい。そして私は、みなさん一人一人が、インフルエンサーだと思います。良い製品やサービス、自分たちの取り組みについて、どんどん発信をして欲しい。一人の百歩より、百人の一歩。まさにこの場のように、いろいろな人がそれぞれ環境へのメッセージを語っていくことが大事だと信じています。